商業主義問題と市民感覚
ESDの阻害要因分析
不自然な人工的有形・無形物がはびこる混沌とした都市社会には、残念ながら、ESDの阻害要因も数多く存在しており、それらの阻害要因を除去するアプローチを行うことも、ESDを効果的に推進するうえで避けては通れないことです。
阻害要因除去の基本は、そのものに接触(アクセス)する機会を完全になくす完全排除が基本ですが、何らかの理由でそれができない場合には、教育的手法により、接触(アクセス)を規制したり、代償行動の実現により、関心の対象から退けさせる価値観(パラダイム)変革(シフト)を図ったりします。
ESD阻害の理論についてですが、そもそもESDの阻害とは何かといえば、本質的には、「自然に調和した持続可能な社会を築いていく、こころ豊かな人間としてあるべき方向に向かうことを妨げる」ことであり、阻害要因とは、その要因であるということができます。ESDの阻害要因は、生活様式が急速にアメリカ化してきた、戦後の高度成長期以降に急激に増えました。ESD阻害要因による弊害は、都市部にいくほど顕著になる傾向がみられ、環境破壊・いじめ・リテラシー低下(マニュアル人間化)・DV・動物虐待・化学物質過敏症(MCS)・生活習慣病・後天性精神疾患などがあります。
主要なESD阻害要因とその主要な対策方法を以下に示します。
ESD阻害要因 | おもな弊害 | 対処方法 |
無機質・不自然な居住環境(住宅・学校など) | 環境破壊、いじめ、DV、動物虐待、MCS、後天性精神疾患など | 学校木質化、無垢材に囲まれた空間(木造住宅・古民家・無垢材家具など)への居住、カントリーセラピー |
ジャンクフード、コンビニ食 | 環境破壊、いじめ、リテラシー低下、DV、動物虐待、MCS、生活習慣病、後天性精神疾患など | 手作り食(和食中心)による食育、社会的側面からの食育 |
自然物(生きた動植物)との隔絶 | 環境破壊、いじめ、リテラシー低下、DV、動物虐待、MCS、後天性精神疾患など | 水生生物などの飼育、園芸、自然環境との接触の機会、カントリーセラピー |
低俗な娯楽施設(パチンコその他の賭博場、ゲームセンターなど) | 環境破壊、いじめ、リテラシー低下、DV、動物虐待、MCS、後天性精神疾患など | 法律・条例による禁止(究極的課題)、市民活動による地域からの排除、代償行動の実現による価値観変革 |
タバコ・有害薬物 | 環境破壊、いじめ、リテラシー低下、DV、動物虐待、MCS、生活習慣病、後天性精神疾患など | タバコ禁止教育、市民運動によるタバコ入手可能機会の排除、親・親しい人などの禁煙治療 |
コンピュータゲーム | いじめ、リテラシー低下、DV、動物虐待、後天性精神疾患など | 代償行動による価値観の変革 |
娯楽性の高いマンガ | いじめ、リテラシー低下、DV、動物虐待、後天性精神疾患など | 代償行動による価値観の変革 |
合成洗剤・柔軟剤・全自動洗濯機 | 環境破壊、リテラシー低下、MCSなど | 石けん使用への転換とそれによる価値観の変革(市民運動としての学習活動) |
カントリーセラピーの効果
長きにわたり都市部の無機質な環境にしか接していないと、無意識のうちにアーバンストレス(都市部居住特有の適応障害)を抱え込み、進行すると、こころが病んだ状態になり、不定愁訴を起こすこともあります。さらに、都市部でいじめや仕事のストレスが加わると、相乗的に増幅されます。何もない田舎でも、道端にけなげに咲く花や、小川を泳ぐ魚やカエルに出会うなど、ちょっとした自然に出会うだけで、都市で忘れかけた何かを取り戻し、こころが癒されることがあります。これが、カントリーセラピーの効果です。自動車ではなく、自転車や徒歩で、五感を働かせてじっくり巡るのが効果的です。宿泊の場合は、農家民宿のような場所が理想的で、近代都市環境の再現のようなリゾート施設では意味がありません。実際にカントリーセラピーを実践することで、都市部に健全性を取り戻すためのヒントも得られます。可能ならば、アーバンストレスの要因が排除された、田舎の古民家への定住が、子育て環境の健全性の確保や人口減少で悩む農村部の過疎問題の是正にもなり、理想です。ロールプレイングの功罪
役になりきり、その役の立場になって感じ、考えるというロールプレイという手法は、子どもの受けもよく、環境教育などのESDで非常に有効な手法として認識されています。
しかし、その手法の「ハマる」ところを資本主義的に悪用したのが、低俗なコンピュータゲームのロールプレイングゲーム(RPG)です。RPGはバーチャル・リアリティ(仮想現実)効果によってのめり込むことで依存しやすくなっており、そのうえゲームが際限なく続くことによって、さらに依存しやすくなっています。仮想現実にのめりこむことで、現実から目を背けるなどの問題行動の原因にもなることが指摘されています。とくに、「敵を殺す」ような主人公になりきり、暴力的なシーンが続くようなものは、健全な情緒を破壊し、非行を助長するなど、教育的にとくに重大な悪影響をもたらします。(ゲームセンターのアーケードゲームの有害性についても同様です。)このようなRPGは、CEROレーティングAのような、たとえ有害性が低いと思われるようなものでも、絶対に子どもに与えてはなりません。
ロールプレイという手法が子ども受けしやすいところを、環境教育などのESDのよい方向に集中的に仕向ける取り組みは、RPGのような粗悪なのめり込みを防ぐ観点からも有効といえるでしょう。