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鳥インフルエンザ問題特集

この冬、全国的に史上最悪の鳥インフルエンザ禍が発生しています。これは、偶然なのでしょうか。根本原因は何なのでしょうか。国や行政の対応に問題はないのでしょうか。私たちにできることは何でしょうか。サステナビリティの考え方で、鳥インフルエンザ問題を正しく理解し、正しく向き合う方法について考えてみましょう。

鳥インフルエンザの高リスク要因について

人の新型コロナウイルスで「密」が高リスク要因であり、「3密を避ける」ことが強く呼びかけられているのは、誰しも知るところです。

同じウイルス感染症の鳥インフルエンザでも同様のことです。とくに、バタリーケージ養鶏では、適正飼養密度(平飼い・放し飼いの1,000〜2,000cm2以上)をはるかに超える異常な過密状態となっており、飼育するだけで鶏に過大なストレスがかかるという異常が、日本ではまかり通っている現状があります。

下の表で、バタリーケージ飼いの1羽あたりの延床面積は450cm2とありますが、例えば、4段+5段の2階建鶏舎の場合は、鶏舎床面積あたりに換算すると、1羽あたり50cm2となり、バタリーケージ設置面積が500m2の鶏舎には10万羽が収容される計算になります。これは、平飼いの20倍以上、放し飼いの40倍以上の飼養密度になります。

バタリーケージ飼育の場合、タブレット端末程度の行動可能面積しかないため、鶏本来の行動表現ができず、運動不足になり、過大なストレスが溜まるため、免疫力は極限まで低下します。その結果、僅かな病原体にも日和見感染しやすくなります。これが、バタリーケージ飼養の養鶏場で鳥インフルエンザ感染が頻発している根本原因となります。

採卵鶏(雌鶏)の飼養法の比較

飼養法種別 ▶ バタリーケージ(日本平均) エンリッチドケージ(EU) 平飼い 放し飼い
飼養密度(延床cm2/羽) 450(※注1) > 750(※注2) > 1,000 > 2,000
飼養密度(羽/飼育場m2 200(※注3) - < 10 < 5
行動拘束の有無 あり(強) あり(弱) なし なし
日本での割合 94%以上 - 6%以下
(※注1)300〜839cm2の間で開きがある。EUでは2012年から違法。
(※注2)ケージの総面積として2,000cm2未満のものは認められない。EUでは、いかなるケージ飼いも避ける傾向にあり、完全ケージフリー化が進んでいる。
(※注3)日本の平均的なバタリーケージの1羽あたり延床面積450cm2、4段+5段の2階建鶏舎を想定して算出。

国・地方自治体・マスコミの対応について

鳥インフルエンザをめぐる国や地方自治体・マスコミの対応に関しては、次のような傾向がみられます。

  • 野鳥やネズミなどの野生動物、昆虫などの侵入が最大の脅威とし、これらの侵入の原因となる破損箇所の補修や消毒の徹底を呼びかける。
  • 全数殺処分は、家畜伝染病予防法のために仕方がないと信じ込ませ、海外で進むアニマルウェルフェアの動きについてはほとんど言及しない。
  • 風評被害による鶏肉・鶏卵の経済的収益の激減を懸念するあまり、最後に「日本では鶏肉を食べて人が感染した事例は報告されていない」という一言を添える
  • 患畜(殺処分)が発生した養鶏場(運営事業者)や汚職等の不祥事に関わった事業者の実名を公表しない。

このように、バタリーケージ養鶏という、アニマルウェルフェア無視の異常な養鶏の問題という「臭いもの」には「ふた」をして、骨抜きの報道やコミュニケーションが常態化している現状があります。このような不自然なな骨抜き報道(コミュニケーション)の実態には、長年にわたり、ケージ養鶏業界によるロビー活動などの影響があるのではないかと考えられます。

2021年2月25日付けで、アキタフーズケージ卵汚職事件に関連して、アキタフーズの元会長主催の高級料亭会食会で供応接待を受けた農林水産省の官僚6名に懲戒処分が下されましたが、これも最近起きた氷山の一角であり、実際にはもっと根が深いものがあるのではないかと思われます。銀鮒の里学校直営のふなあん市民運動メディアでは、農林水産省大臣官房秘書課に対して、真相究明と倫理や保健衛生に配慮した持続可能な畜産への方向転換を強く要請しました。

付随する畜産問題

養鶏をめぐる畜産の問題は、鳥インフルエンザだけではありません。一年を通して、以下のような問題があります。

アニマルウェルフェア

バタリーケージによる採卵鶏の超過密飼育以外にも、オスひよこの強制殺処分(シュレッダー処理)、飼養過程で行われるデビーク(嘴の強制切断)、断食を伴う強制換羽(かんう)、オール・イン・オール・アウト方式の鶏入れ替え時に行われる乱暴な扱い(ケージから鶏を乱暴に引き抜き、ゴミ同然の扱いをする)など、鶏に対してモノ以下の扱いをすることが深刻な問題となっています。鶏は畜産動物のなかでも最も対価性が低い部類に入るため、病気やケガをしても治療が行われることはほとんどなく、たいていの場合、死亡するまで放置されている実態があります。

消毒剤等による環境汚染

鶏の過密飼育(工業(工場)的畜産)が、消毒剤等の有害化学物質の乱用を招いていることは意外と知られていません。鶏舎や靴底の消毒などでは陽イオン界面活性剤(逆性石けん)が安易に使用され、不衛生な環境でコクシジウム原虫やウジが発生したら、発がん性や変異原性が強く疑われるオルトジクロロベンゼン乳剤(通称:オルソ剤)が一般的に使用されたりします。その使用実態は、野菜や果樹などの農薬よりもひどいともいわれます。過密飼育で衛生管理でどうしても無理が生じ、それを無理やり押さえ込むために有害な消毒剤が乱用される悪循環が常態化しているのです。

薬剤耐性菌汚染

超過密飼育では、通常はかからないような感染症にもかかりやすくなるため、ほとんどの養鶏場では、飼料に合成抗菌剤や抗生物質が混入されています。鶏に日常的に合成抗菌剤や抗生物質を摂取させていると、これらの抗菌物質に対して抵抗性をもつ細菌が発生します。2018年、厚生労働省は、食肉販売店に出回る鶏肉の半数以上から、ヒト用の抗菌剤が効かない薬剤耐性菌が検出されたと発表しました。飼料添加用抗菌剤の有効成分の多くは、ヒト用の医薬品として用いられる抗菌剤のそれらと共通しているために、このようなことが起こったのです。これは、細菌感染症の治療が必要になったいざというときに、ヒト用の抗菌剤の多くが効かず、薬物治療の可能性の大部分が絶たれ、通常は比較的簡単なはずの治療が困難をきわめるおそれがあることを意味しています。有機農業でも合成抗菌剤や抗生物質、薬剤耐性菌を含む可能性がある鶏糞が使用されることが多く、問題をより広範化させています。

いま、私たちがすべきこと

鳥インフルエンザ禍やそれに付随する畜産問題を未然に防ぐために、私たちは何をすべきでしょうか。

ケージ卵は決して買わない、そのうえでエッグスマートを実践する

ただでさえ残酷な飼育方法であり、鳥インフルエンザの感染爆弾と化するバタリーケージ養鶏(場)。そのようなバタリーケージ養鶏の卵を買わないことは、鳥インフルエンザウイルスが人体で変異して、ヒト新型インフルエンザが発生するのを未然に防ぐために非常に重要になります。鳥インフルエンザや薬剤耐性菌の問題は、人畜共通感染症の問題です。バタリーケージ養鶏の卵を買わないこと、食べないことは、養鶏農業の問題だけではなく、人の保健衛生の問題を未然に防ぐためにもきわめて重要なことであるとの認識をもつことが不可欠です。

さらに、採卵養鶏をケージフリー化したとしても、オスひよこの殺処分などの問題はあるとして、鶏卵の消費そのものを問題視する見方もあります。そのことから、鶏卵の消費そのものを減らすエッグスマートを実践することも、新しい社会的要請となってきています。

食品販売店に要望を出したり政策提言をする

前のことに関連して、食品販売店に、ケージ養鶏の鶏卵やその加工品を扱わないように要望を出したり、地方自治体や国に、養鶏のケージフリー化の推進(感染症等のリスクが高いケージ養鶏の規制)に関する政策提言を行うことも、誰にでもできる重要な取り組みです。

可能であればビーガンを目指す

可能であれば、ビーガンを目指すことも、実は現実的な取り組みになります。栄養学の知見も持続可能性を意識したものが充実し、以前と比べても、より豊かで安心してヴィーガンになれる環境が整ってきています。腸内細菌叢をビーガン型に変え、ビーガンの食生活に徐々に順応させていくことが、無理なくビーガンに移行するコツになります。生協や自然食品店での入手を含めても、日本国内で倫理的に生産された畜産品を購入することはきわめて困難な実態がありますから、ビーガンになることができれば、食材の管理や毎日の料理など、いろいろな点で楽になれますので、実は現実的観点からもお勧めなのです。